【国家試験 総評】第113回 看護師国家試験解説
はじめに
今回は、第113回看護師国家試験の総評(解説)を行います。解説は主に、必修問題、一般問題、状況設定問題に分けて行います。
なお、毎年の国家試験は公表されている「看護師国家試験出題基準」に合わせて作成されているため、参考にしながら解説を行います。
看護師国家試験とは
看護師国家試験は厚生労働省により施行されている国家試験の1つです。毎年2月の第2日曜日に1日かけて行われる試験で、会場は全国各地の12都道府県に設定されています。合格発表は例年、3月下旬の金曜日です。
看護師国家試験の試験内容
試験時間:午前の部 午前9時50分 〜 12時30分(計2時間40分)/午後の部 午後2時20分 ~ 5時(計2時間40分)
試験内容:「人体の構造と機能」「疾病の成り立ちと回復の促進」「健康支援と社会保障制度」「基礎看護学」「成人看護学」「老年看護学」「小児看護学」「母性看護学」「精神看護学」「在宅看護論」「看護の統合と実践」
問題数:必修問題 50問、一般問題 130問、状況設定問題 60問 (計240問)
看護師国家試験の合格基準
看護師国家試験の合格基準(ボーダーライン)は以下です。
【必修問題】:正答率80%以上(40点 / 50点満点 以上)/【一般問題+状況設定問題】:毎年変動(正答率60〜70%程度)
※合格率は全受験者の90%程度に設定されることが多いようです。
では実際に近年の看護師国家試験の合格基準をチェックしてみましょう!最新の令和6年2月11日実施の看護師国家試験の合格基準は以下です。
合格基準 | 満点 | |
必修問題(1問1点) | 40点以上 | 49点(除外問題あり) |
一般問題(1問1点)
状況設定問題(1問2点) |
158点以上 |
250点 |
出典:厚生労働省
必須問題は除外問題があったため49点満点に変更となりましたが、合格基準は毎年変わらず正答率80%以上のため、令和6年の合格基準点は40点以上となりました。また、一般問題+状況設定問題の合格基準点は158点以上で、正答率に置き換えると63.2%となりました。
そして、令和6年の第113回看護師国家試験の合格率は87.8%でした(合格者55557人 / 受験者63301人)。
合格率が90%を超える年もありますが、令和6年は90%を切りました。このように、合格率は90%前後で毎年変動します。
第113回 看護師国家試験解説
必修問題解説(やや難)
113回看護師国家試験の必修問題は例年と比べても全体的にやや難化した印象です。
必修問題全50問を「出題基準」の目標Ⅰ~Ⅳに分類して解説します。
目標Ⅰ健康および看護における社会的倫理的側面について基本的な知識を問う
全体的には基本的な問題が多く出題されました。世帯数(午前-1)や死亡場所(午前-2)、介護保険制度(午前-4)、平均寿命(午後-1)、合計特殊出生率(午後-10)など毎年頻出の問題が今年も出題されました。
これらの問題は、毎年頻出であるので必ず勉強する必要があります。特に、介護保険制度などは制度が細かく、どのように問題として問われるかが毎年異なってくるため、制度の基本を覚えたうえで、様々な過去問を解きどのように質問されても答えることが出来るように勉強を行う必要があります。この他にも、「国民健康・栄養調査」からの出題も頻出であり、目を通しておく必要があります。
また、「保健師助産師看護師法」や「看護師等の人材確保の促進に関する法律」からの出題も毎年見られ、今年も午後-5で問われました。看護師に関わる法律は毎年頻出であるため学習をする必要があります。
目標Ⅱ看護の対象および看護活動の場と看護の機能について基本的な知識を問う
例年問われている内容でもある発達に関わる問題(午前-7、午後-6、7、8)が多く問われています。
発達段階でどのような現象が現れるかを区別して、どのように問われても答えられるように対策をする必要があります。
目標Ⅲ看護に必要な人体の構造と機および健康障害と回復について基本的な知識を問う
例年と比べてもやや難化した印象です。
この「目標」からは、主に医学的な知識を問われますが、範囲も膨大であり新しい問題を作りやすい箇所でもあります。今回の国家試験でも、過去問題では見られなかった問題が多く出題されました。特に、「人体の基本的な構造と正常な機能」は毎年必ず聞かれており、今年は運動系(午前―11)、神経系(午前-12)、免疫系(午前-13)、循環器系(午後-11)、消化器系(午後-12)などが出題されました。
人体の構造として基本的な箇所が問題となっていたため、基本的な人体の構造を学習することが重要です。また、人間の死に関する判定の方法や死の3徴も必ず聞かれる内容なので押さえておく必要があります。
また今年の必修問題で出題された薬理に関する問題も、抗菌薬の基本にかかわる問題(午前-16)やインドメタシン内服薬の禁忌(午前-17)、手術予定の患者の休薬(午後-16)、緑内障患者への投与禁忌(午後-25)など、これらも薬理学の基本にかかわる問題が出題されました。薬理学も毎年必ず聞かれる内容であるため、薬理学の基本を押さえておく必要があります。
目標Ⅳ看護技術に関する基本的な知識を問う
例年と比べてもやや難化した印象です。特に、救命救急処置に関する問題が多く出題されました(午前-23、24、午後-23)。他にも基本的な看護に関する手技を問う成人への坐薬の挿入方法(午前-22)、看護過程に関する内容(午後-17、18)、ストレッチャーでの移動方法(午後21)、採血の方法(午後-22)などが出題されました。
新問とみられる内容もありましたが、いずれも基本的な看護技術を問うものですので押さえておく必要があります。
総合評価
過去問では見られなかった問題がいくつか見られたこともあり、やや難としましたが、全体的にみるといずれも基本的な問題が中心であり、新問とみられる問題でも人体の構造や機能、看護技術などの基本をしっかりと学習していれば、必修80%以上は得点出来たと思います。
一般問題解説(例年通り)
一般問題は「看護師国家試験出題基準」での分類を今回は大きくA.「医学問題」(人体の構造と機能、疾病の成り立ちと回復の促進)、B.「健康支援と社会保障制度」、C.「看護学分野」(基礎看護学など)に便宜上分けて解説します。
「医学問題」:やや難化
4択や5択から1つ解答を選ぶ問題ではおおむね基本的な人体の構造が問われましたが、5択から2つ解答を選ぶ問題ではやや難化しました。
4択や5択問題は選択肢の数に関わらず、基本的な項目が問われており、解答に悩むことも少ないと考えられます。ただし、問われている範囲は広いためまんべんなく勉強することが求められます。
5択から2つを選ぶ問題ではやや難化した印象を受けました。結核(午前-83)や敗血症性ショック(午前-84)などのように、疾患や病態の深い理解が解答に結びつきます。
一般的に医学的な分野を問う問題は範囲が広いのですが、毎年問われる疾患・病態には傾向があり、まずは毎年頻出の問題を抑える必要があります。その上で、疾患に関してはその疾患に特徴的な病態を学習するように心がけましょう。
「健康支援と社会保障制度」:例年通り
この分野からは例年通りの出題でした。特にこの分野は労働力(午前-28)、生活保護法(午前-29)、健康寿命(午前-32)、男女雇用機会均等法(午後-28)など例年頻出の問題が今年も出題されました。
看護師国試で問われる法律の種類は毎年ほとんど変わりませんが、どのように問われてもよいように法律が何を禁止しているか、反対に何を求めているかをまとめておきましょう。
この分野では一部、制度に関して立ち入った内容を問われた箇所もあり、特に労働者災害補償保険法の保険者(午前-82)市町村の大腸がん検診の項目(午後-82)など制度の内容を深く知らなければ解くことが難しい問題も出題されました。
社会保障にかかわる問題は毎年必ず出題されており、必修問題でも問われているため優先的に覚える必要があります。
「看護学分野」:例年通り
看護に関わる分野では、例年通りの出題となりました。看護の各領域では特に、基礎看護分野では、滅菌手袋の装着方法(午前-35)や車いすの移乗(午後-37)など基本的な看護技術の問題が問われました。これらは知識問題、というより技術の問題であるため基本的動作の理解が必要です。
その他、病室の明るさ(午前-37)、男性の膀胱留置カテーテルの挿入(午前-38)、輸液の計算(午後-90)などは毎年頻出問題です。基礎看護は基本的な問題が多く、毎年頻出の問題にも傾向があるため、過去問を活用して確実に得点出来るようにしましょう。
成人看護では、主に術後患者の病態や慢性疾患に対する看護が出題されていましたが、ドレーン排液の観察(午前-42)、減感作療法(午前-43)、尋常性乾癬(午前-44)といったやや内容を深堀した内容が問われましたが、全体的には例年通りの出題であり、急性期看護で押さえるべき術後管理や術後の創傷治癒、インスリンの自己管理(午後-87)などの基本的な看護は毎年頻出であり押さえておく必要があります。
老年では、例年通りの出題であり、老年期の身体や心理の特徴をおさえておくことが重要です。
小児や母性、精神看護領域では、例年通り法律や社会保障制度などからの出題が多く見られました。
小児では毎年頻出の発達段階に合わせた遊びや特徴、発達に関わる理論(今年はボウルヴィ(午前-54)、ピアジェ(午後-55))はかならず年齢と対応させて表などととともに覚える必要があります。
母性では人工中絶に関する内容(午前-60)や流産の定義(午前-61)といった例年頻出の問題も出題されました。これらも医学的な定義を覚えることが重要です。
在宅・地域看護領域では、簡単な事例が提供され問題を解く内容が多く、患者背景の理解に合わせた看護の提供と社会保障制度の理解が必要でしたが、基本的な内容が多く問われていました。
社会保障制度に関する内容は在宅看護以外にも必修でも問われる内容であるため、必ず覚える必要があります。
看護の統合と実践領域では、災害時の看護や外国人に対する看護など、例年通りの出題でした。
災害時の子どもの遊びに関する内容(午前-72)や災害時のストレス(午前-73)などまさに「統合」と言えるような、他の領域の分野との関連を問われているため、まずは遊びなら「小児」、ストレスなら「精神」の領域で学んだあとに災害との関連をおさえておく必要があります。
なお今年の国家試験は災害に関わる看護の問題が必修をふくめて多く出題されました。看護の統合分野として災害に関わる看護を深く学んでおきましょう。
状況設定問題解説(例年通り)
状況設定問題は患者の状況をアセスメントし、患者の置かれている状況を把握することが求められる総合問題ですが、こちらも例年通りの難易度で出題されました。
患者背景として問われた疾患も「COPD、認知症、変形性膝関節症、先天性食道閉鎖症、自閉症スペクトラム、肺癌、非ホジキンリンパ腫、脳梗塞、うつ病、強迫性障害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー」、また、在宅で終末期を迎える患者や妊娠出産を迎える母親のケアなど一般的に実習などで出会いやすい、普遍的な疾患や対象者の状況をもとに問題が作成されている傾向は去年とも変わりなく、検査データや基本的な病態の把握が出来ていれば解答できた問題が多い印象です。
この状況設定問題も一般問題で問われたような各看護領域に従って出題されるため、まずは一般状況設定で問われるような、対象者の理解や制度の理解、疾患の理解があって初めてこのような状況設定問題を解くことが出来るようになります。各領域で出会いやすい疾患の理解に努めることも重要であると言えます。
まとめ
第113回国家試験は一部の問題を除き概ね例年通りの出題となりました。
必修がやや難化したともいえますが、国家試験は毎年同じ問題が出るわけではありません。しかし、「看護師国家試験出題基準」にあるように、基本的な事柄、つまり将来看護師となる皆さんが必ず知っておいてほしいことを中心に出題されます。
そのため、まずは基本から積み重ね、過去問を解くことを通して毎年の傾向を掴みつつも新しい問題にもしっかりと対処できるように日々の受験勉強に取り組んでいきましょう。