看護師不足と医師不足をどう解決するか|厚労省のタスク・シフトとPA職から考える看護教育
看護師不足・医療職種再設計・国家試験対策
看護師不足は「人数不足」ではなく医療職種の再設計問題である
厚労省のタスク・シフト/シェア、特定行為研修、世界のPA職から考える日本型チーム医療と看護教育のこれから
2026年5月、厚生労働省の「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」で、看護師など医療関係職種の養成校の定員割れについて、18歳人口が減少する中で改善は「なかなか見込めない」との認識が示されました。
これは、単なる「看護学校の学生募集が難しくなっている」という話ではありません。少子化によって、医療職種を養成する仕組みそのものが揺らぎ始めているということです。
Meg看護師国試予備校では、看護師不足を「看護師だけの問題」とは考えていません。
看護師不足は、医師不足、地域医療、在宅医療、病院経営、国家試験制度、そして医療職種全体の役割分担の見直しにつながる構造問題です。
この記事の要点
1. 定員割れは構造問題
18歳人口の減少により、養成校側の努力だけでは学生確保が難しくなっています。
2. 看護師不足と医師不足は連動
医師に業務が集中すれば看護師の負担も増え、現場全体が疲弊します。
3. 厚労省にも近い発想がある
タスク・シフト/シェアや特定行為研修は、医師業務の一部を多職種で支える考え方です。
4. 世界ではPA職が広がる
米国だけでなく、英国・カナダ・オランダ・豪州などでもPA職や類似職が存在します。
看護師不足は、なぜ「養成校の努力」だけでは解決しにくいのか
これまで医療人材不足への対応は、「足りない職種を増やす」という発想で進められてきました。看護師が足りなければ看護師養成校を増やす。医師が足りなければ医学部定員を増やす。介護人材が足りなければ処遇改善を行う。もちろん、これらは必要な政策です。
しかし、少子化が進む社会では、この発想だけでは限界があります。若い世代そのものが減っているため、医療・介護だけが人材を大量に確保し続けることは難しくなります。
重要なのは、「看護師をどれだけ増やせるか」だけではありません。
これからは、「限られた人数で、どのように医療の質を維持するか」という問いに変わっていきます。
厚労省の資料でも、2040年に向けて18歳人口の減少が大きな課題として示されています。また、医療関係職種の養成課程では、看護師を含む複数の職種で定員充足率の低下が課題となっています。
看護師不足と医師不足は、同じ構造から生まれている
看護師不足と医師不足は、別々の問題に見えます。しかし現場では、両者は深く結びついています。
医師が不足すれば、診療・説明・指示・書類作成・救急対応などが医師に集中します。医師が多忙になれば、看護師への指示や相談、教育の余裕も減ります。看護師側も、医師の判断を待つ時間が増え、患者対応や病棟業務が滞りやすくなります。
その結果、看護師の業務負担や心理的負担も増え、離職や志望者減少につながります。つまり、医師不足は看護師不足を悪化させ、看護師不足は医師不足をさらに深刻にするという悪循環が起こります。
ここで必要になるのが、医師と看護師の間にある業務をどう再設計するか、という発想です。
厚労省にも「PA的発想」はあるのか
結論から言えば、厚労省がアメリカ型PAをそのまま導入する制度を明確に打ち出しているわけではありません。しかし、発想として近いものはすでにあります。それが、医師の働き方改革の中で進められてきた「タスク・シフト/シェア」です。
タスク・シフト/シェアとは、医師に集中している業務の一部を、看護師や薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師、医師事務作業補助者など、他の医療職種と分担する考え方です。
特に重要なのが、特定行為研修を修了した看護師です。厚労省資料では、特定行為研修修了者を配置した事例において、医師による平均指示回数、夜間帯の指示回数、病棟看護師の月平均残業時間が減少したことが示されています。
| 項目 | 配置前 | 配置後 | 示唆 |
|---|---|---|---|
| 医師による平均指示回数 | 692回/週 | 200回/週 | 医師への都度確認が減り、現場判断が進みやすい |
| 19時以降の医師の平均指示回数 | 77回/月 | 21回/月 | 夜間帯の医師負担軽減につながる可能性 |
| 病棟看護師の月平均残業時間 | 401.75時間/月 | 233.25時間/月 | 看護師側の業務負担軽減にもつながる可能性 |
参考:厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」資料
つまり日本でも、「医師しかできない仕事」とされてきた領域の一部を、一定の教育を受けた看護師や多職種が担う方向性はすでに始まっています。
ただし、日本の現行制度はあくまで「看護師資格を基盤に高度化する」制度です。アメリカのPAのように、医師と看護師の中間に新しい独立した職種を制度化しているわけではありません。
アメリカ以外にも広がるPA職・類似職
PA、Physician AssistantまたはPhysician Associateは、アメリカだけの制度ではありません。医師不足、地域偏在、高齢化、医療アクセスの問題を背景に、複数の国でPA職または類似職が導入されています。
| 国・地域 | 制度の特徴 | 日本への示唆 |
|---|---|---|
| イギリス | NHSでPhysician Associateが導入されている一方、患者安全や職種誤認をめぐる問題が生じ、2025年に政府レビューの勧告が受け入れられました。 | PA的職種を導入する場合、患者に「医師ではない」ことを明確に伝え、監督体制を制度化する必要があります。 |
| カナダ | PAの業務範囲は医師からの委任に基づき、監督医の診療範囲内で定められる仕組みです。 | 業務範囲を現場任せにせず、診療科・施設・監督医との関係を明文化することが重要です。 |
| オランダ | NAPAによれば、オランダでは2,300人以上のPAが働いており、BIG registerによる登録制度も整備されています。 | 専門職団体、登録制度、継続教育をセットで整えることで、職種としての信頼性を高められます。 |
| オーストラリア | Queensland Healthでは、PAを医師の委任と監督の下で働く多職種チームの一員と位置づけています。 | 医師を代替するのではなく、医師の監督下でチーム医療を補完する設計が重要です。 |
参考:英国政府 PA review recommendations / Canadian Association of Physician Assistants / NAPA Netherlands / BIG register / Queensland Health Physician Assistant guideline
日本型PAを考えるなら、「医師代替」ではなく「高度臨床職」として設計すべき
海外のPA制度から学べることは、単に「医師不足だから医師の代わりを作る」ということではありません。むしろ、最も重要なのは、医師の専門性を本当に必要な場面に集中させるため、医療チーム全体の役割を再設計するという発想です。
日本でPA的職種を議論する場合、出発点は明確でなければなりません。それは、医師の代替ではなく、医師主導のチーム医療を支える高度臨床職として制度化することです。
日本型PA・高度臨床職が担う可能性のある領域
術後管理
救急外来の初期評価補助
在宅医療の継続フォロー
高齢者施設での急変予防
医師への報告・連携強化
このとき重要なのは、責任の所在を曖昧にしないことです。誰が医師で、誰が看護師で、誰がPA的職種なのか。どこまでを誰が判断し、最終責任を誰が負うのか。ここを明確にしなければ、患者安全上のリスクが高まります。
PA的職種は、看護師不足対策にもなり得る
PA的職種の議論は、一見すると医師不足対策に見えます。しかし、看護師不足対策にもつながる可能性があります。
その理由は、看護師のキャリアパスが多様化するからです。現在の看護師のキャリアは、病棟経験、管理職、認定看護師、専門看護師、教育職などが中心です。しかし、臨床現場に残りながら、より高度な判断や処置、医師との協働を担いたい看護師にとって、明確なキャリア階段はまだ十分とは言えません。
特定行為研修、診療看護師NP、将来的な日本型PAのような制度が整理されれば、看護師にとって「臨床現場に残りながら専門性を高める道」が見えやすくなります。
ただし、注意も必要です。
看護師不足の中で、優秀な看護師だけを高度職へ引き上げると、病棟看護や基礎看護の現場がさらに疲弊する可能性があります。高度職の制度設計は、一般看護師の処遇改善、夜勤負担軽減、看護補助者の活用、離職防止策とセットで考える必要があります。
看護師国家試験は「暗記型」から「臨床判断型」へ
医療現場で求められる看護師像が変われば、看護師国家試験で問われる力も変わります。
これからの看護師には、患者の状態を観察する力、異常を早期に発見する力、優先順位を判断する力、医師に正確に報告する力、多職種と連携する力、地域・在宅まで含めて患者を理解する力が求められます。
これは、PAやNPを目指す人だけに必要な力ではありません。すべての看護師に必要な基礎能力です。
Meg看護師国試予備校が重視する学習
必修問題
基礎知識を曖昧にせず、足切りを避けるための確実な得点力を作ります。
一般問題
解剖生理、疾患、薬理、看護をバラバラではなく、つなげて理解します。
状況設定問題
患者情報を整理し、優先順位を判断する読み方を身につけます。
学習管理
現役生・既卒生それぞれの状況に合わせ、学習計画を個別に調整します。
過去問を何周するかは大切です。しかし、それだけでは十分ではありません。間違えた問題を「知識不足」とだけ捉えるのではなく、問題文の読み落とし、患者像の把握不足、優先順位の判断ミス、臨床的な考え方の不足まで分析する必要があります。
Meg看護師国試予備校のマンツーマン指導では、一人ひとりの弱点を確認しながら、国家試験合格に必要な知識と、これからの医療現場で求められる判断力を育てていきます。
提言:日本は「看護師を増やす政策」から「医療職種を再設計する政策」へ
看護師不足への対応として、看護師を目指す人を増やす努力は当然必要です。しかし、18歳人口そのものが減少する中で、養成校の定員を埋めるだけの政策には限界があります。
これから必要なのは、医師・看護師・薬剤師・リハビリ職・検査技師・診療放射線技師・医師事務作業補助者などを含めた、医療職種全体の役割再設計です。
日本型チーム医療に必要な方向性
1. 看護基礎教育で臨床判断力を強化する
2. 特定行為研修を現場で活用しやすくする
3. NPや日本型PA的職種を、医師の代替ではなく高度臨床職として整理する
4. 医師の監督責任と高度臨床職の業務範囲を明確にする
5. 患者が職種を誤認しないよう、名称・名札・説明を明確化する
6. 地域医療・在宅医療・救急医療で活用できる制度として設計する
厚労省が進めるタスク・シフト/シェアや特定行為研修は、この方向性の一部と見ることができます。今後はさらに一歩進めて、医師・看護師・高度臨床職をどのように配置するのかという「医療職種の全体設計」が問われるはずです。
まとめ:看護師不足の時代だからこそ、看護師に求められる力は高まる
看護師不足は深刻な問題です。しかし、それは同時に、日本の医療教育と医療職種制度を作り直す入口でもあります。
アメリカ、イギリス、カナダ、オランダ、オーストラリアの事例を見ると、PA的職種は医師不足・地域医療・高齢化に対応する一つの選択肢になっています。ただし、どの国でも重要なのは、PAが医師の代替ではなく、医師を支える職種として設計されることです。
日本でも、タスク・シフト/シェアや特定行為研修を土台に、将来的には日本型PAやNPのような高度臨床職を制度的に整理していく必要があります。
そして、その基礎になるのが看護教育です。看護師国家試験対策も、単なる暗記学習にとどまる時代ではありません。患者を観察し、判断し、医師や多職種と連携する力が求められます。
Meg看護師国試予備校のマンツーマン指導
Meg看護師国試予備校では、現役生・既卒生それぞれの状況に合わせて、必修問題、一般問題、状況設定問題、進級・卒業試験対策まで個別にサポートします。
看護師不足の時代だからこそ、看護師に求められる力は下がるのではありません。むしろ、より高く、より実践的になっていきます。Meg看護師国試予備校は、国家試験合格だけでなく、これからの医療現場で必要とされる看護師を目指す学習を支援します。
関連コース
国家試験対策コース
現役生・既卒生に対応。必修・一般・状況設定問題まで、苦手分野に合わせてマンツーマンで対策します。
看護師国家試験 通年コース
既卒生向けに年間カリキュラムを作成し、苦手科目の克服から模試・過去問演習まで伴走します。
進級・卒業試験対策コース
看護学科1〜4年生の進級試験・卒業試験に対応。大学の授業進度に合わせて個別に対策します。
リメディアルコース
看護学科で必要となる生物・化学・基礎医学系科目を、入学前・低学年の段階から補強します。
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執筆者
Meg看護師国試予備校 編集部
看護師国家試験、進級試験、卒業試験、既卒生の再受験対策に関する情報を発信しています。国家試験の出題傾向、看護教育、医療政策、学習計画の立て方などを、受験生・看護学生・保護者の方に向けてわかりやすく解説します。
監修者
岩崎陽一
株式会社アクト代表。PMD医学部専門予備校、CES医師国試予備校、CES歯科医師国試予備校、CES薬剤師国試予備校、Meg看護師国試予備校、Meg獣医師国試予備校、Meg心理師国試予備校を運営。
医療系国家試験、進級・卒業試験対策、医療政策、少子化による教育市場の変化について継続的に分析し、医療系教育における個別最適化と学習管理の重要性を発信している。
参考資料
CBnews「医療職種の養成校、定員割れ改善『見込めない』」
厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」資料
UK Government「Patient safety boost as PA review recommendations accepted」
Canadian Association of Physician Assistants「Information Brief」
NAPA Netherlands「English information」
Queensland Health「Physician assistant – Clinical governance guideline」
